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3年と5年で、安い案は変わる?SaaS・パッケージ・独自開発の費用比較

現状維持を含む5案で、支払いと社内作業の費用を同じ期間で比べます。3年と5年で費用の順番が変わる計算例をたどり、返品、在庫、会計連携への対応も点検。自社の条件で選ぶための比較材料です。

現状維持、SaaS、パッケージ、個別開発を3年・5年の利用期間で比較するイラスト

SaaS・パッケージ・独自開発は、必須の業務と例外にどう対応するかをそろえたうえで、利用年数ごとの総費用と、やめるときの費用・データの出口まで比べて選びます。

たとえば、3年使うなら現状維持が380万円、SaaSが387万円。ところが5年では、現状維持が608万円、SaaSが579万円になります。事務用品卸で、支払いと社内作業の時間を金額に換算して比べた例です(想定例)。

順番が変わる理由は、現状維持で続く照合・管理の作業です。見本では年間360時間を見込んでいます。毎月の支払いが小さくても、使い続ける年数だけ手作業が積み重なります。

ただ、5年で安いという理由だけではSaaSに決められません。返品や在庫の取り置きが自社の手順に合うか、必要な人を確保できるかも選択を左右します。まず業務条件をそろえ、その条件を満たす案について、同じ年数の負担を比べていきます。

四つの選択肢を同じ土俵に置く

基本となる方式は、現状維持、SaaS、パッケージ、独自開発の四つです。後の比較表には、組み合わせ案として「SaaS+追加開発」も並べます。五つ目は、SaaSで足りる業務を残し、合わない部分だけを作る案です。ノーコードやローコード、AIを使った開発まで候補に入れる場合は、ノーコード・ローコード・AI開発・独自開発の選び方で試作後まで比べます。

  • 現状維持:Excel、紙、メール、既存システムの運用を整える
  • SaaS:提供事業者が運用するサービスを、設定して使う
  • パッケージ:既製のソフトウェアを導入し、設定や必要な追加対応を行う
  • 独自開発:自社の業務ルールに合わせて必要な画面と処理を作る
SaaSとパッケージは、設置場所だけで分かれるわけではない

SaaSは、提供者がクラウド上で動かすアプリケーションを利用する形です。NISTの定義では、利用者は通常、基盤のサーバーやOSを管理せず、利用者向けの限られた設定を行います(出典:NIST「Software as a Service」)。

パッケージの設置場所は、自社の建物内に限りません。たとえばサイボウズのパッケージ版Garoonは、自社サーバーのほか、AWSやAzureなどのクラウド基盤で利用できると案内しています。既製品か独自開発かという区別と、どこで動かすかという区別を分けて確認します(出典:サイボウズ「動作環境 パッケージ版」)。

「何も変えない」も比較対象です。困りごとの影響が小さく、運用ルールの整理で足りるなら、導入しない判断に理由が生まれます。併用は、この四つを業務ごとに組み合わせる考え方です。

業務適合は例外処理で比べる

通常の登録や検索に加え、取消、差し戻し、締日、独自帳票などを試します。必須の例外を三つ程度選び、「標準で対応」「設定で対応」「追加対応」「手作業」「対象外」のどれに当たるかを候補ごとに確かめます。

たとえば返品では、商品を戻すだけでなく、売上や請求をいつ取り消すのかまで見ます。在庫の引当は、受注分を取り置きして、別の注文に売らないための処理です。二つの倉庫で同じ商品を扱うなら、どちらの在庫を使うか、移動中の商品をどう数えるかも確認します。

業務の順番を変えれば標準機能で済む場合と、変えると現場が困る場合を分けます。追加開発が必要になるのは、守るべき業務条件を標準機能で満たせない場合です。今の画面との違いだけで決めません。

冒頭の事務用品卸は、利用者10人、月1,000件の受注、2倉庫で、返品と引当を扱う設定です。会計への受渡しは月1回。日中の手作業を認め、当日中に受注・在庫の記録をそろえる条件で5案を比べます。

候補 業務への合わせ方と会計への受渡し(想定例)
現状維持 返品・引当・倉庫別在庫を手作業で照合。当日中に記録をそろえる。月1回、会計向けの表を手作業で作る。
SaaS 返品・倉庫別在庫は標準機能、引当は倉庫の優先順を設定。返品の承認順を標準に合わせる想定。月1回、出力したデータを会計向けに手直しする。
パッケージ 返品・引当・2倉庫は標準機能。会計への受渡しを追加対応する前提。追加した出力機能から月1回取り込む。
独自開発 返品・引当・倉庫管理と会計向け出力を仕様に含める前提。開発した出力機能から月1回取り込む。
SaaS+追加開発 返品・引当・2倉庫はSaaS。会計向けの整形だけを作る前提。SaaSから出力し、整形後に会計へ月1回取り込む。

この例で、出荷前に在庫を自動で取り置くことが必須へ変われば、手作業に頼る現状維持は候補から外れます。費用が最小でも、欠けたら業務が止まる条件を満たさなければ選べません。

初期費用と月額だけで決めない

比較する費用は、利用料や開発費だけで決まりません。導入前の整理、データ移行、運用担当者の作業、製品更新、やめるときの受渡しまでを分けます。各社の見積りに含まれる作業の読み方は、システム開発費は何で決まる?予算別3案の比較で確認できます。

今回の比較では、外へ支払う費用と、社内の作業時間を金額に換算した負担を足します。社内作業の換算額は、新たに支払う現金とは別です。予算の支払いを考えるときは支払額を、人を確保できるか考えるときは作業時間も見ます。

総費用には、導入、利用中、終了・乗換えの支払いと、それぞれに必要な社内作業を含めます。

3年ではほぼ同額、5年では順番が変わる

先ほどの想定例で、支払額を次のように置きます。金額の単位は万円、支払額は税抜です。社内の作業は1時間3,000円で換算します。年間費用は利用料・保守・稼働環境などの合計とし、人数・件数・料金は一定とします。値上げ、物価変動、将来の金額を現在の価値に直す計算は含めません。

候補 3年の支払額 3年の社内換算 3年総費用 5年総費用
現状維持 38 342 380 608
SaaS 255 132 387 579
パッケージ 340 108 448 未確認
独自開発 460 102 562 658
SaaS+追加開発 355 90 445 611

3年の総額を比べると、現状維持とSaaSの差は7万円です。しかし内訳は大きく違います。現状維持は支払い38万円に対して社内作業の換算額342万円、SaaSは支払い255万円に対して132万円。支払いの予算が厳しいのか、照合を続ける人手が足りないのかで、同じ総額の見え方も変わります。

初期・年間・終了費用と社内作業時間の内訳
候補 初期 導入移行 年間 3年終了 5年終了
現状維持 10 0 6 10 10
SaaS 30 20 60 25 25
パッケージ 150 30 40 40 未確認
独自開発 300 40 30 30 30
SaaS+追加開発 110 20 65 30 30

社内の作業は、1時間3,000円で換算します。下表には導入準備、運用の照合・管理、終了時の引継ぎに必要な時間を置いています。通常の受注入力など各案に共通する作業と、既存の会計システムに共通してかかる費用は比較から除きます。

候補 導入時 毎年 3年終了 5年終了
現状維持 20時間 360時間 40時間 40時間
SaaS 40時間 120時間 40時間 40時間
パッケージ 60時間 80時間 60時間 未確認
独自開発 100時間 60時間 60時間 60時間
SaaS+追加開発 60時間 60時間 60時間 60時間

3年で終了する場合と5年で終了する場合は、それぞれ別の選択として計算します。5年の合計に3年時点の終了費用を重ねて加えません。終了・乗換え費用にはデータの出力・整形・引継ぎを含め、次の製品の新規導入費は除きます。

SaaSの3年では、支払額は30+20+60×3+25=255万円。社内作業は(40+120×3+40)時間×3,000円=132万円です。両方を足して387万円になります。表の総額も万円です。

比較表には、記入用と記入見本を収録しています。Excelで記入するか、印刷用PDFを使えます。

社内作業の換算単価を変えると、選ぶ理由も変わる

現状維持とSaaSの3年差7万円は、固定した結論ではありません。現状維持の社内作業は導入20+年360×3+終了40=1,140時間、SaaSは40+120×3+40=440時間です。差の700時間をいくらで見るかが、総額の比較に大きく響きます。

社内作業1時間の換算額 現状維持の3年総費用 SaaSの3年総費用 総額の差
3,000円 380万円 387万円 現状維持が7万円低い
3,100円 391.4万円 391.4万円 同額
4,000円 494万円 431万円 SaaSが63万円低い

同額になる換算額は、社外支払いの差217万円÷作業時間の差700時間=3,100円/時間です。この境目は、表に置いた支払額と作業時間が変われば動きます。いずれの換算額でも社外への支払いは現状維持38万円、SaaS255万円なので、SaaSへ移ると支払予算は217万円増えます。社内作業の負担と、資金として用意する額を別々に考えます。

配布Excelを複製し、「記入見本」のB26を3,000→3,100→4,000へ変えると、B6・C6でこの違いを確かめられます。社内単価だけでなく、毎年の照合作業が本当に120時間まで減るかも調べてください。時間の見込みが合わなければ、換算額の調整だけで候補を選びません。

未確認は空欄のまま残す

パッケージの5年終了時の費用と作業時間は、記入見本でも未確認として残しています。そのため5年の総費用は出しません。終了費用の空欄を「無料」と扱うと、確認が少ない候補ほど安く見えてしまいます。

仮に5年終了時も支払い40万円、社内作業60時間と確認できれば、合計は576万円です。SaaSとの差は3万円に縮まります。小さな差で決める前に、未確認の項目と、金額が変わる条件を確かめます。

記入用の比較表では、分からない金額を空欄にし、未確認事項欄へ質問を残します。0円と分かっている項目だけ0を入力します。人数や保存量が増える見込みがあれば、見本の一定料金をそのまま使わず、同じ増加条件で各候補の費用を取り直します。

データと連携の出口を調べる

顧客、案件、商品、履歴をどの形式で取り出せるか。通常の一覧だけでなく、取消済みの記録、添付ファイル、過去の履歴も必要かを見ます。解約の前後で受け取れる範囲が変わるなら、出力する時期を決めておきます。

APIなどを使って連携する場合は、対象データ、利用回数の制限、追加契約、止まったときの再開方法も調べます。詳しい項目は、API連携の要件|待ち時間・再送・二重実行で整理しています。出力できることと、そのまま別の製品で使えることは同じではありません。

独自開発でも、特定のクラウドや外部製品へ依存します。保存先、バックアップ、ソースコード、設定、契約終了時の引き渡しを先に決めます。自社向けに作ったという理由だけで、すべてを自由に受け取れるとは限りません。権利と引渡し範囲を個別の契約で確認します。

運用できる人と変更の速さを比べる

利用開始後に誰が権限を管理し、項目を追加し、問い合わせを受け、改善を決めるか。担当者が置けない選択肢は、機能が合っていても運用条件に合いません。

SaaSでは提供側の更新内容と時期、パッケージでは本体更新と追加部分の対応、独自開発では保守の依頼先と変更判断を確かめます。併用する場合は、サービス側と追加開発側のどちらへ問い合わせるかも決めます。

IPAはモデル契約の案内で、契約時に仕様やプロジェクト管理方法、検収方法などの共通理解を深めることを説明しています。この比較でも、作業の担当と完成時の確認内容を契約前にそろえます(出典:IPA「情報システム・モデル取引・契約書 第二版」)。

既製品を残して周辺だけを作る

受注・在庫はSaaSの標準機能で足りるのに、会計へ渡す形だけが合わない。その場合は、SaaSから出力したデータを自社の会計形式に整える部分だけを作る案があります。

受注・在庫を管理するSaaSから、売上データを出力する。追加開発した処理で自社の会計形式に整え、月1回、既存の会計システムへ取り込む。

図1 受注・在庫はSaaSに任せ、会計に渡す形だけを作る想定例。

この例では、商品と在庫の管理をSaaSに残し、追加開発では会計に必要な項目名や並び順を整えます。受注管理をもう一つ作る必要はありません。月1回の取込み前に担当者が件数と金額を確認する作業は残します。

併用には追加部分の保守費と、SaaSの出力仕様が変わったときの対応費がかかります。見本ではSaaS単体より毎年の社内作業が少ない一方、初期費用と年間費用が増えています。手直しの時間を減らす価値と、追加部分を維持する負担を比べて選びます。

選ばない理由まで残す

比較記録には、採用理由と見送った理由を残します。前提が変わったとき、同じ調査を最初からやり直さずに済みます。必須条件を満たす候補について、支払額、確保する社内時間、未確認事項を同じ期間で確認します。

既製品に任せる範囲と自社向けに作る範囲を相談する際は、この比較表を使って、必要な支援を検討できます。

kintoneを利用中なら、アプリごとに標準設定で足りる部分と追加開発する部分を整理できます(kintoneの標準機能・追加開発・移行を比べる)。

まず現在の仕事で手作業が残る場面を一つ選び、年間に何時間かかるかを書き出してください。利用料と合わせて比べると、選択の理由が見えてきます。

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参考出典

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